アンチセンス法を用いた基礎研究と応用への展望

武内 恒成
(名古屋大学大学院 理学研究科生命理学専攻 機能調節学)

 生体内分子の機能を解析するには、その分子の欠損や不活性化を用いた方法が、現在もっとも有効な方法であることは間違いない。マウスを用いた遺伝子ターゲッティング法は、そのなかでも最も多くの成果をもたらした。しかし、この方法では本当に重要で発生初期に致死となる分子では、詳細な生理機能の解析が困難となる。また、類縁分子による代償作用やredundancyによって、期待されるだけの明らかな変化を生じることなく、解析が困難なことも多い。そのために、組織・部位特異的に遺伝子をノックアウトする技術も進められている。 さらには、幾つかの分子を様々な組み合わせで発現抑制したり、再び発現させて解析がしたくとも、ここには多くの労力と課題が待ちかまえている。
アンチセンス法はこのような問題点の克服と要求に応える研究方法の一つである。さらに特定の疾患の治療に、遺伝子ターゲッティング法を人に応用することはおよそ無理であるが、アンチセンス法では特定の遺伝子の暴走をくい止めることや生体に進入したウイルスの増殖をアンチセンスで押さえるなどの応用が期待された。以上のような状況から、ほんの5年ほど前には夢の「核酸医薬品」としての期待から、アンチセンスは多くのベンチャー企業の参入など喧噪ともおぼしきバブルな時代があった。ところが3年くらい前から、少し沈静化の様相がある。
我々は、このアンチセンスバブル期にさしかかる頃から、基礎研究でアンチセンス法を用いてきた。方法論としては非常に魅力的であるにもかかわらず、時代に翻弄?されたアンチセンス法の現状と、実際になにができて、なにが出来なかったかを我々のいくつかの解析例を交えて紹介したい。世界中にアンチセンスの研究グループが乱立しはじめる頃にちょうど我々が行っていた細胞間接着構造の解析へのアンチセンス法の応用から、神経発生での解析への基礎応用など、我々の進めてきた解析と、広く眺めたなかでのアンチセンス法のこれまでの流れを論議したい。
 基礎研究では、近年、線虫のRNAiによる遺伝子発現抑制が(原理的には不明な点も多いが)盛んに用いられ強力なツールとなった。これにともないゼブラフィッシュで様々な試みがされるなかで、モノフォリノアンチセンスオリゴが大きな成果を上げはじめ、昨年から大きく取り上げられている。この流れにも乗って、これらモデル動物を用いた基礎解析から、再度、アンチセンス法の復権?がうかがえる。 さて、この流れに乗って、再び華やかな世界にアンチセンス法は躍り出るであろうか。本当に夢の核酸医薬品はできるのだろうか。